成果発信プログラム
「ビルマ・コンバウン時代の借金証文」
R4 3-1 (令和4年度 AY2022 新規)
研究代表者 | 斎藤 照子 (東京外国語大学 / 名誉教授) |
研究課題 | ビルマ・コンバウン時代の借金証文 |
研究対象国 | ミャンマー |
刊行物の内容
本研究は、これまでほとんど未開拓であった在地文書に依拠する東南アジア近世研究の可能性をビルマを対象として探っている。この試みは庶民にも普及した折畳写本の中に大量の借金証文が含まれていたことの発見によって可能となった。これらの証文を分析し、近世ビルマの社会経済変動とその歴史的意味を問い、さらに公権力の介入が不在な中で、私人が取り交わした契約が、どのようにして契約の実を持ちえたかを考察することを通じて近世ビルマ社会の性格を論じた。
刊行物の目的及び意義
ベトナムを除いた大部分の東南アジア諸国の前近代史は、王統史や慣習法典そして文学のほかは、渡来した宣教師や商人など外来者による記録を主資料として描かれてきた。庶民の日常生活を記した在地の記録などはありえないと想定されてきたからである。しかし、ビルマにおいて折畳写本の中に地方社会や庶民生活に関連した記録が豊富に残されていたことは、同じような資料が、他の東南アジア諸国にも残されている可能性を示しているように思われる。他地域における在地資料の発掘を促す刺激となり、東南アジアの前近代史のより深く広い発展に向けて一石を投じることができれば、というのが第一の目的である。
またビルマでは発見された在地文書の物理的寿命がほぼ尽き欠けていることも気にかかる。優れたライブラリアン、アーキビストたちが1980年代後半からこうした在地資料の収集、保存に力を入れてきたため、多くの資料が長くて200~250年という資料の耐久性を伸ばしてきたが、それでも残っている資料のうち完全に読み取れるものはその半分にも満たない。こうした資料を丹念に読み込んで研究する人々の数もとても少ない。在地資料が含む豊かな情報が、新しいより踏み込んだ歴史研究を支えてくれることを示したいというのが第二の願いだが、本研究がその責務を果たしているかどうか、まだ一歩足りないようにも思われる。