成果発信プログラム

「ラオス焼畑村落の時空間分析」

R5 3-1 (令和5年度 AY2023)

研究代表者中辻 享 (甲南大学文学部 / 教授)
研究課題ラオス焼畑村落の時空間分析
研究対象国ラオス人民民主共和国

刊行物の内容

『焼畑を活かす 土地利用の地理学-ラオス山村の70年』
本書はラオス北部の一地域を事例とした研究であり、以下の3部からなる。第1部は1990年代後半以降、国家政策と市場経済の影響が強まる中で、ラオス焼畑民がどのような生計と土地利用を採用しているかを明らかにする。第2部では、焼畑民が伝統的に従事してきた家畜飼養の実態を主に土地利用の面から解明する。第3部では航空写真や米軍偵察衛星写真を用い、土地利用・土地被覆を1940年代までさかのぼって、捉え直すことを目的とする。

刊行物の目的及び意義

本書の第一の刊行目的は東南アジアの焼畑村落の土地利用を構造的に把握した上で、焼畑を活かした今後の土地利用のあり方を探ることにある。焼畑は各国で森林破壊の元凶とみなされ、その根絶政策が実施された結果、急速に減少しつつある。一方、既往研究では、その代替農業とされる換金作物栽培や植林と比べてはるかに環境保全的であること、少ない資本と労働でも高い生産性が得られるため、貧しい農民が参入しやすいセーフティーネットとして機能していること、地域文化やアイデンティティの核となっていることなどが明らかにされてきた。モノカルチャーの開発が大きな環境負荷をもたらし、政策の見直しが要請される今日、焼畑が環境、世帯経済、社会、文化の維持に果たしてきた以上のような役割が注目されており、それを活かした土地利用のあり方を探ることが求められている。本書の第二の刊行目的は、多時点の航空写真の利用が地域の環境や歴史の理解を深めるために欠かせないことを広く知らしめることにある。ラオスでは1940年代以降、数年から十数年の間隔で航空写真・米軍偵察衛星写真が撮影されており、その画像は鮮明で解像度も高い。にもかかわらず、こうした写真はこれまでほとんど研究に利用されてこなかった。本書はこれらの写真を活用して、過去・現在の土地利用・土地被覆を見据えた上で、未来の土地利用のあり方を展望しようとするものである。