客員共同研究プログラム

「タイのカツオクジラの特殊な採餌様式に関する国際共同研究」

R7-8 5-1 (令和7年度 FY2025 新規)

研究代表者岩田 高志 (神戸大学大学院海事科学研究科 / 助教)
共同研究者木村 里子 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 准教授)
Patcharaporn Yaowasooth (Department of Marine and Coastal Resources)
Watchara Sakornwimon (Department of Marine and Coastal Resources)
Surasak Thongsukdee (Department of Marine and Coastal Resources)
研究課題タイのカツオクジラの特殊な採餌様式に関する国際共同研究
研究対象国タイ

研究概要

本研究は、タイ湾に生息するカツオクジラの採餌行動を解明し、その保全に貢献することを目的とする。タイ湾で確認されたカツオクジラの「バクバク採餌」は、ヒゲクジラ類では世界で唯一の採餌様式であり、水面付近で行われる採餌のため、船舶衝突や漁網絡まりのリスクを高める可能性がある。本研究では、タイのDepartment of Marine and Coastal Resources(DMCR)から客員研究員が来日し、DMCRがこれまでに蓄積した10年以上の目視観測データを解析する。バクバク採餌の特徴(一度に費やす時間など)を明らかにし、得られた知見をカツオクジラの保全策に活用する方針を提案する。この研究は、DMCRとの国際共同研究体制を再構築し、持続可能な研究基盤の確立を目指す。

研究目的・意義・期待される効果など

本研究は、タイ湾に生息するカツオクジラの特異な採餌行動「バクバク採餌」の実態を解明し、同種の保全や人間活動との共存に向けた知見を得ることを目的とする。カツオクジラは、ナガスクジラ科に属するヒゲクジラの一種であり、小魚やプランクトンを捕食する際に、一般的には「ランジフィーディング」と呼ばれる方法を用いる。しかし、タイ湾では、同種が水面付近で勢いよく口を複数回開閉するという、他地域では確認されていない独自の採餌様式が観察されている。この行動は「バクバク採餌」と便宜的に呼ばれ、世界初の発見である可能性がある。

本研究では、タイのDepartment of Marine and Coastal Resources(DMCR)との国際共同研究として、DMCRが10年以上にわたり蓄積してきた目視観測データを用い、採餌時の口開閉回数や継続時間、採餌頻度、実施個体の割合などを定量的に解析する。また、海洋環境データと照らし合わせることで、採餌様式の使い分けや環境との関連性も明らかにする。カツオクジラはタイ国内で特別保護動物に指定されており、記録計を装着するバイオロギング調査の実施が難しいため、長期間にわたる目視観測の解析は特に有効である。

さらに本研究では、DMCRとのコロナ禍で中断されていた研究協力を再構築し、客員研究員の長期滞在によるデータ解析と論文執筆を進めることで、持続可能な国際研究体制の基盤づくりにも貢献する。得られた知見は、採餌海域における船舶速度の制限など、具体的な保全対策の提言にもつながる。

本研究の成果としては、①世界初の採餌行動の科学的記述、②目視観測データの有効活用、③国際共同研究の強化、④カツオクジラの保全施策への応用が期待される。研究成果は国際学術誌への投稿を目指すとともに、プレスリリース等を通じて一般にも広く発信し、今後の大型共同研究プロジェクトへの発展を目指す。

Photo 1: カツオクジラ2頭の立ち泳ぎ採餌
Photo 2: カツオクジラの立ち泳ぎ採餌