インキュベーション・プログラム

「競争的権威主義体制下での地方自治と政策波及: インドネシア、タイ、フィリピンの比較」

R7-8 1-4 (令和7年度 FY2025 新規)

研究代表者永井 史男 (大阪公立大学大学院法学研究科 / 教授)
共同研究者岡本 正明 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 教授)
菊地 端夫 (明治大学経営学部 / 教授)
船津 鶴代 (日本貿易振興機構アジア経済研究所・新領域研究センター / 主任研究員)
長谷川 拓也 (東洋大学アジア文化研究所 / 客員研究員)
原 民樹 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 / 助教)
山田 千佳 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 助教)
吐合 大祐 (高知県立大学文化学部 / 講師)
久納 源太 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 連携研究員)
研究課題競争的権威主義体制下での地方自治と政策波及: インドネシア、タイ、フィリピンの比較
研究対象国タイ, フィリピン, インドネシア

研究概要

本研究は、近年脱民主化の傾向を示し、中進国としてさまざまな課題を抱える東南アジア主要国、とりわけタイ、フィリピン、インドネシアの3か国に焦点を充て、環境破壊・教育格差拡大・高齢化・麻薬蔓延・情報格差拡大などグローバル課題に最前線で効果的に対応する自治体発の政策が「どのように」「なぜ」国内外に波及したのかを解明する。これら3国では権威主義化の兆候が見られ「再中央集権化」が進む一方、地方のレベルではさまざまな興味深い試みが観察されており、分野横断的に研究を進める。

研究目的・意義・期待される効果など

本研究の目的は、東南アジアの地方自治体間、あるいは国家間において、政策波及が「なぜ」また「どのように」生じるのかを明らかにすることにある。こうした研究は日本やアメリカ、欧米諸国やラテンアメリカでは行われているものの、東南アジアについては本研究を除き皆無である。しかも、民主化が反転する中で中進国特有の問題に直面する東南アジア諸国の地方自治体にとって、先進的な政策事例を学ぶことは実践的にも喫緊の課題である。そもそも東南アジアの地方ガバナンスの世界で実際に政策波及が起きていること自体がほとんど知られていないうえ、そのメカニズムを解明した研究蓄積自体がほとんどない。しかも、権威主義化や再中央集権化が進む中でさらなる地方分権による人的・財政的リソースの移転が望めない以上、政策波及はきわめて現実的かつ喫緊の意義をもつ。すなわち本研究の意義は、このようにほとんど未開拓の分野といえる政策波及の具体的事例研究を通して、「見える化」と理論的貢献を行うとともに、実践的知見を社会に還元することにある。本研究を通して科学研究費基盤研究を取得し、広範な現地調査の実施を通じて研究深め、最終的には英文論文の公表とともに日本語での商業出版を行い、日本及び世界への発信を目指している。

Photo 1: 自治体による高齢者介護分野で最先端を走っているブンイートー市(パトゥムターニー県)のデイケア・デイサービス・センター。ここでの実践をモデルに、タイ全国の自治体から見学が絶えない。
Photo 2: スマートシティ分野で最先端を行くチエンマイ県メーヒア市の研究センター。デジタル政府開発庁からの補助金で、他の自治体からの研修生を受け入れている。
Photo 3: ブンイートー市と並んで高齢者介護分野で最先端を走っているタップマー町(ラヨーン県)のデイケア・センターを訪問したときの様子。
Photo 4: カンボジア国境に近いアランヤプラテート市の高齢者学校。小学校の古い教室を借りて、週に1度高齢者が集まり、音楽や踊り、手芸を楽しんでいる。こうした試みは今やタイ全国の自治体に広がっている。
Photo 5: 日本のNGOや自治体も参画している高齢者介護分野でのモデル普及事業(Smart & Strong Project)全国大会での様子。タイの大学の先生と自治体担当者が、各地方でのハブづくりについて話し合っている。
すべて永井がタイで撮影したものである。