パイロット・スタディ・プログラム
「帰還に対するミャンマー難⺠の選択: カイン州のある村を事例として」
R6 2-3 (令和6年度 AY2024)
研究代表者 | ⼤場 翠 (東京外国語⼤学⼤学院総合国際学研究科 / 博士課程) |
研究課題 | 帰還に対するミャンマー難⺠の選択: カイン州のある村を事例として |
研究対象国 | ミャンマー, タイ |
研究概要
ミャンマーカイン州レイケイコー村は、ミャンマーの紛争被害者や帰還難民の受け皿として作られた村であり、日本外務省資金による大規模な支援が行われた。研究代表者はこれまで、タイのターク県を拠点に、主にレイケイコー村に帰還した難⺠当事者を含む村の元住⺠たちへの聞き取りを行ってきた。本研究では、最終目的に向けた予備的研究として、帰還の⼤枠を今⼀度検討するために、関連国際機関や学術機関などの訪問を通した情報収集を行う。
研究目的・意義・期待される効果など
本研究の目的は、難民当時者の人々が、なぜ、あえてレイケイコー村への帰還を選択したのかを明らかにすることである。UNHCRは、帰還を最も望ましい難民問題の恒久的解決策として提唱してきたが、実態として、タイ難⺠キャンプからミャンマーへの帰還を望む難⺠当事者は限られていた。また、難民キャンプからレイケイコー村に移り住んだ者は、村の人口のうち25%のみであった。
一方で、過去に聞き取りをした複数の難民当事者は、キャンプ難民としてのステータスを捨てるリスクを取ってまでも、レイケイコー村への帰還を選択した。先行研究では、恒久的な解決策としての帰還に対する批判的な議論が主流となっている。本研究は、従来の「帰還批判」を妥当なものと受け止めたうえで、レイケイコー村への帰還の選択について難民当事者の視点から検討する。帰還をめぐる批判では、政策提言を目的とすれば有益である一方で、難民が画一的に無力な人々として描かれやすい。本研究では、人々の多様な姿や現場のリアリティを描き出すことを試みる。
難⺠研究の多くが⽂献研究に依拠する社会科学系の研究を占めており、アフリカ地域を扱うものが圧倒的に多い。本研究の意義は、フィールドワークに基づいて、難民当時者の視点から、蓄積の少ない東南アジア地域の難民の帰還に焦点をあてる点にある。また、長期化した難民状態にある人々が増加する中、ミャンマーに限らず、今後の帰還支援事業に対しての提⾔を与え得ると考えられる。