インキュベーション・プログラム

「『東南アジア型発展径路』概念の深化に向けたFieldNote Archiveの可能性: インドネシア・南スラウェシを事例として」

R5-6 1-2 (令和5年度 AY2023 新規)

研究代表者大橋 厚子 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 連携教授)
共同研究者小田 なら (東京外国語大学・世界言語社会教育センター / 講師)
田中 耕司 (京都大学名誉教授)
柳澤 雅之 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 准教授)
趙 浩衍 (大阪大学大学院文学研究科 / 博士後期課程学生)
Asmita Ahmad (ハサヌディン大学農学部 / 土壌学科学科長)
研究課題「東南アジア型発展径路」概念の深化に向けたFieldNote Archiveの可能性: インドネシア・南スラウェシを事例として
研究対象国インドネシア

研究概要

本年度の研究では、南スラウェシの現況について現地調査によって情報収集するとともに、田中耕司による1980年南スラウェシ現地調査記録の重要部分を、質的資料を位置情報によって世界地図に紐づけできるFieldNote Archiveを利用して整理する。さらに1850年頃、1920年代後半、1980年代前半、2020年代前半の4時点について、地方行政官の配置、貿易額、人口を比較して歴史的動向の概要を得る。その後、昨年度得られたジャワ島の発展経路の仮説と比較して共通点と差異を確認し、南スラウェシの発展経路の特徴に関する仮説を得る。

研究目的・意義・期待される効果など

本研究は、東南アジア地域研究研究所がこれまでに実施した共同研究の成果を、2020年代にグローバルに適用できる広範性を持たせて、若い世代に手渡すことを目指す。西洋近代のパラダイムでは気候危機やアジアの発展の現状を説明できなくなっている一方で、東南アジア地域研究は、以下のように、グローバルな課題解決に繋がる現状認識パラダイムを作ることのできる戦略的位置にあると考えられる。

「生存基盤確保型発展経路」概念は、京都大学の「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」プロジェクト(2007-2012年)に影響を受けたインド史研究で生み出された。この概念の強みは、古代から2020年代までのインド史の通観と現在インドの国家的課題が可視化できることである。また生存基盤確保の要素として、土地、資本、労働力のほかに、水・エネルギー源の確保および社会における多様性の包摂が提案された。他方、東南アジアでは、一次産品を輸出しながら工業化を達成し、資本・食料・エネルギー源は輸入する場合が多かった。そこで生存基盤確保の要素として、さらに貿易を加えることが有効と考えられる。こうして貿易の役割を強調するとともに現地調査の蓄積を生かして「東南アジア型発展経路」を模索することで、既存の欧米型、東アジア型、南アジア(インド)型発展経路との比較および関連付けが容易になる。そして現在の全球的課題の歴史的経緯を説明し課題解決の一助となると期待される。さらに現代の喫緊の課題に関心を持つ若い世代の心に響く歴史叙述が可能となると期待される。