インキュベーション・プログラム
「蚊媒介性感染症の予防を取り入れた水災害のリスクコミュニケーションの改善: マレーシアペナンを例として」
R4-5 1-2 (令和5年度 AY2023 継続)
研究代表者 | 吉川 みな子 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 連携教授) |
共同研究者 | 岡本 正明 (京都大学東南アジア地域研究研究所 / 教授) CHONG Khai Lin (マレーシアウタラ大学災害管理研究所 / 講師) ABDUL NIFA Faizatul Akmar (マレーシアウタラ大学災害管理研究所 / 准教授) Rakwi Nensar Wai Wai Phyo (東京大学大学院医学系研究科 / 大学院生) MOI Meng Ling (東京大学大学院医学系研究科 / 教授) ISHAK Intan Haslina (マレーシア理科大学 生物科学部 / 講師) AMRANNUDIN Nurul Adilah (マレーシア理科大学 生物科学部 / 大学院生) |
研究課題 | 蚊媒介性感染症の予防を取り入れた水災害のリスクコミュニケーションの改善: マレーシアペナンを例として |
研究対象国 | マレーシア |
研究概要
国際観光地であるマレーシアのペナン州において行われている水災害のリスクコミュニケーションには、発災によりリスクが増すと考えられる生命・健康リスクであるデング熱等の蚊媒介性感染症の予防に資する情報が含まれていない。そこで、本研究により新たに防災と防疫のリスクコミュニケーションを統合するため、高リスク地域(水災害の発生、媒介蚊の分布または発生、旅行者の集中という少なくとも3要因が重なる)について、世界遺産地区を対象として臨地調査により明らかにし、結果の可視化を通じて地域社会との共有を試みる。洪水および蚊の繁殖に寄与すると考えられる環境中のリスク情報が不足していることからそれらを収集し、来訪者への配布資料としての利用を提案する。一連の活動により国境、学問分野を超えた学術交流を実現し、学際的な研究人財の育成にも寄与する。
研究目的・意義・期待される効果など
防災と防疫を統合した新たなリスクコミュニケーションを考案するにあたり、現地調査は世界遺産地区のジョージタウンを対象として防災学 (おもに工学)、医科学(感染症学、衛生動物学)を用いて行う。水災害の過去の発生箇所及び今後発生が予測される箇所であってなおかつ観光客、とくに外国人観光客が集中するエリアにおいて、ヤブカ属の媒介蚊の分布が確認できる、または水たまり箇所の出現などにより発生源となり得る箇所を明らかにする。並行して、なぜマレーシアでは統合型リスクコミュニケーションが実現していないのかについて、政治学・経営学を中心とした文献調査を行い、関係省庁の連携を困難にしている要因を突き止める。
マレーシアにおける水災害、デング熱に関する研究蓄積はそれぞれあるものの、防災と防疫両方を視野に入れた学術的な研究は不足している。そこで、本研究の活動を通じて、マレーシアの水災害研究者と日本の医学研究者・社会科学研究者が互いの知識・経験を共有する機会を創出する。高リスクエリア特定の精度を向上するには、今後媒介蚊によるウイルスの保有の有無等のウイルス研究が必要となることから、研究チームのメンバーが有している日本の防災系・医学系の研究ネットワークと、マレーシアの防災系・医学系の研究ネットワークが協働できる基幹の構築を試みる。
水災害と感染症リスクの低減を統合的且つ持続的に行うためには、それぞれの専門分野を相互参照する学際的な研究をリードできる研究人財の育成が重要である。そこで、現地調査には大学院生などの参加を奨励し、学際研究の具体例を体験する機会を提供する計画である。さらに、本研究メンバーであるマレーシアの若手研究者がシンガポールの専門家と意見交換する場を設け、域内の学術交流の活性化と研究ネットワークの拡大にも貢献する。
本研究の成果は、国際観光地ペナンにおける水災害の発生時における対応力の強化に寄与すると考える。高リスクエリアの情報はペナン固有のものではあるが、本研究が考案する防災・防疫の統合型リスクコミュニケーションの手法は、気候変動下にあってデング熱等の感染症の脅威に晒されて続けている熱帯・亜熱帯の地域社会の参照例として役立つ可能性がある。