パイロット・スタディ・プログラム
「タイのダム湖に⽣息する2種の巨⼤淡⽔⿂における共存メカニズム」
R4 2-3 (令和4年度 AY2022)
研究代表者 | 目戸 綾乃 (京都大学大学院情報学研究科 / 博士後期課程) |
研究課題 | タイのダム湖に⽣息する2種の巨⼤淡⽔⿂における共存メカニズム |
研究対象国 | タイ |
研究概要
大型動物は大きく成長し、巨体を維持するために大量の餌を必要とするため、ある場所に生息できる種数や個体数が限られる。一方、タイ国では、種の保存や資源回復を目的として放流された複数種の巨大淡水魚がある湖で共存している。この要因として、それぞれの巨大淡水魚が餌の選択において競合を避けることが考えられる。そこで、タイ国のダム湖に放流された巨大淡水魚・メコンオオナマズとカイヤンを対象に、複数のダム湖で放流後の体サイズと餌の競合状況を調査する。
研究目的・意義・期待される効果など
本研究は、餌の選択に着目して、複数種の巨大淡水魚が共存しながら大きく成長できる要因を明らかにすることを目指す。東南アジアを原産とするメコンオオナマズ(Pangasianodon gigas:最大体長3m)およびカイヤン(Pangasianodon hypophthalmus:最大体長1.3m)は、地域住民のタンパク源として利用されてきたが、現在ではIUCNレッドリストで絶滅危惧種に指定される。2種の持続可能な資源利用に向けて、タイ国水産局は人工的に繁殖させた稚魚をダム湖に放流している一方、種苗放流が資源の回復につながっていない。そこで、タイ国のダム湖に放流されたメコンオオナマズおよびカイヤンを対象に、安定同位体比分析を用いて餌の競合状況を調査し、放流後の体サイズ情報とあわせて複数のダム湖間で比較する。
これまで、東南アジアの巨大淡水魚は生態に関する知見が不足していたため、科学的根拠に基づいた資源管理がおこなわれていなかった。本研究により、複数の調査地が開拓され、メコンオオナマズおよびカイヤンの生態を比較できるようになれば、本種の成長や共存に関わる要因を推測でき、将来的に水産資源の回復や地域住民への安定した食糧供給に大きく貢献すると考えられる。また、本研究を通して日本およびタイ国の研究者や漁業者とのネットワークが構築されることで、研究成果を現地へ迅速に発信するとともに、資源管理における問題点を地域住民と共有することも期待される。