パイロット・スタディ・プログラム

「民族宗教としての『ベトナム仏教』の普及とナショナリズム」

R5 2-4 (令和5年度 AY2023)

研究代表者金 知雲 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 / 博士課程)
研究課題民族宗教としての「ベトナム仏教」の普及とナショナリズム
研究対象国ベトナム

研究概要

今日ベトナム国内では、「ベトナム仏教(Phật Giáo Việt Nam)」という言葉が一般的に使われており、あたかも仏教と民族とが不可分の関係であるかのように語られている。しかし歴史を振り返ると、「ベトナム仏教」はナショナリズムが通底した20世紀の社会変動の影響を大きく受けており、その内実は宗派、エスニシティ、地域によって様々であった。本研究は、「ベトナム仏教」という概念がどのように普及・変遷したのかを明らかにすることで、民族宗教として位置付けられている「ベトナム仏教」を捉え直す。

研究目的・意義・期待される効果など

本研究は、1)ベトナムにおけるナショナリズムの勃興と広がりに伴い、ベトナムの仏教徒の間で「ベトナム仏教」という概念が普及する過程と、2)「ベトナム仏教」の内実が宗派(大乗仏教・上座部仏教)、エスニシティ(ベト人・クメール人)、地域(北部・中部・南部)による多様性を維持しながら、植民地支配、独立、分断、戦争、統一などの激しい社会変動を経て変容していく過程を明らかにする。研究方法としては、20世紀の仏教諸団体の出版物内の言説を分析する文献調査と、仏教諸団体の関係者を対象とするインタビュー調査を併用する。

本研究は、仏教が民族(史)に貢献してきたとする「ベトナム仏教」言説を批判的に検討することで、多様な「ベトナム仏教」の歩みを浮き彫りにすることができる点において意義があるといえる。それにより、ベトナムにとって激動の時代であった20世紀、ナショナリズムに触発された「ベトナム仏教」の普及と変遷の過程が多種多様であった当時の様子を描き出し、仏教とナショナリズムの関係に着目した20世紀のベトナムにおける新しい仏教史を提示することが可能になる。加えて、新しい仏教史を描くことで、同時期に同じくナショナリズムの影響の下でそれぞれ独自に歩んだ東南アジア各国の仏教や日本仏教との比較史研究に広がることも期待される。

国際仏教旗と金星紅旗が飾られているクワンス寺院
上座部仏教の建築様式であるティエンラム寺院